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魚仏誕生—アジアの祈りを描く旅 第23回

  • 彩蘭弥 
  • 24 時間前
  • 読了時間: 11分

彩蘭弥 

超巨大☆キラキラ総本山編


 前回の寄稿で群馬県にある台湾のお寺、佛光山法水寺について書いた。今回はその続き、台湾の高雄にある佛光山の総本山を訪ねた時のお話だ。

 

 今回は法水寺からのツアーという形で、法師様が集めた数人と旅をした。信者の皆さまと、静かな祈りの旅になるかと思いきや、ひと癖もふた癖もある人々との珍道中に巻き込まれる事となる。また、総本山も日本人の私が想像するような落ち着いた雰囲気からは想像を絶する規模のものだった。驚きや戸惑い、宗教とカネ、そして私の出した結論まで、ひととき旅を共にして下されば嬉しい。

 

 2024年2月21日。早朝の成田空港。タラップからLCCの古い機体に乗り込む。凍えるような寒さだ。飛行機はスムーズに桃園空港に到着。在来線で桃園高鉄駅まで行き、新幹線に乗り換えた。日本から一気に20度以上気温が上がり、暑さと眩しさに目がくらむ。待ち合わせの左営駅には1時間も早く着いてしまった。しばらくして今回のツアーメンバー全員が合流した。紫の蝶々がペイントされ虹色の電飾が光るド派手な観光バスに乗り込み、最初のお寺、潮州講堂へ向かう。高雄に点在する佛光山の別院の宿坊に泊まりながら、数日かけて総本山を目指す予定だ。

 

 さて、今回のメンバーを軽くご紹介しよう。中国、台湾、そして日本人の混合パーティーだ。なお、私が勝手にあだ名をつけているが、あしからず。

 

法師さま:今回のツアーを企画し、皆を本山へ導く存在。

ヴィトンちゃん:日本に帰化した中国系の大富豪。恰幅が良く溌剌とした女性で、全身ルイ・ヴィトン。

Yマダム:厚化粧にウィッグがトレードマークのマダム。金、物、人への執着心が強い。ヴィトンちゃんに出資している。

T氏:サングラスにベスト、身体中にお守りの石を身につけた、過去も現在も謎だらけの男性。ヴィトンちゃんに出資している。

げんき君:専門学校を卒業後、進路模索中の21歳。明るく人懐っこい性格。祖父母は佛光山の重鎮信者。

リーさん:少し抜けたところがあるが、心優しい台湾人女性。

寡黙君:無口で少食な青年。仏道に入りたがっている。

気功師のUさん、Sさん:身体に白い丸シールを貼っている。ヴィトンちゃんに出資している。

Oさん:祈りには参加せず、仕事の電話を手放さない経営者の男性。ヴィトンちゃんに出資している。

 

 今日の宿坊に着く頃には、もうすっかり陽が落ちていた。潮州講堂の門前のスピーカーから歓迎の歌が爆音で流れ、現地の法師様たちが出迎えてくれた。今日の部屋割りで同室となったのは、ヴィトンちゃんとYマダムだ。別室のT氏も遊びに来て、ひまわりの種やお菓子をつまみながら、おしゃべりが始まった。ヴィトンちゃんの兄は習近平国家主席から直々に仕事を依頼され、国中に350ヶ所のスケートリンクを作ったり、未来型の宿を作ったりしている大富豪で、お姉さんは中国のスピリチュアル界隈では有名人らしい。話はヴィトンちゃん家族が関わる巨大プロジェクトから、どうやったら富裕層になれるかという流れになった。そのうちYマダムとT氏が、自分たちと同じように君もヴィトンちゃんに出資すれば、莫大なリターンを得る事ができて、富裕層になれると言い出した。一口999,000円で夢のような生活ができるらしい。それを聞いてどっと疲れが出た。丁重にお断りし、その日は横になった。金にしか目がない人々、そんな印象を受けたが、日を追うごとに違う面も見えてくる。

 

 2月22日。朝のお祈りのため5:30起床。法水寺と違い日本語のルビのある経本が無いので経を読めず、苦労する。一通りの儀礼を行い、バスに乗り込んで、次の目的地である屏東講堂へ向かった。ここでは昼食をいただいた。肉や魚、牛乳など動物性のものは一切とらない精進料理だが、佛光山の料理はいつも丁寧な作りで美味しい。甘餅、刀削麺、野菜の中華炒め、そしてなんと言ってもトロピカルフルーツの山! 生のナツメなど日本ではあまりお目にかかれない物も多い。食事の後はみんなで座禅を組んだ。満腹で睡魔と闘いながらの精神統一は容易ではない。

 

 一同はまたバスに乗り、今日の宿である南屏別院を目指す。今までの宿坊と違い、都会の中にあるビル型の別院だ。カプセルホテルのような小さな1人部屋をあてがわれた。今晩はトマトラーメンをいただく。同じテーブルのT氏、げんきくんと共に鍋や炒飯などシェアした。なお、宿代や食事代は信者の寄進で賄われているため、実質タダである。その上、どんどん食べろと勧められるので、常に満腹。それはそれで何かの修行のようでもあった。T氏は全身にお守りの石をぶら下げている、いかにも怪しい中国人という風貌だ。彼の身の上は壮絶なものだった。手術で死にかけた経験や、長年にわたる車椅子生活の話、家族の揉め事や、親友が火事で亡くなった話など様々な不運に遭遇している。それで今は万病に行くサプリメントを売っているそうだ。げんき君はモラトリアム中の21歳だ。髪型や香水にも気を使う、気さくで明るい子だ。今回の旅で唯一フラットに会話できる相手だ。食後にげんき君と共に夜市へ繰り出す。2人でスタスタ歩きながら夜の高雄を満喫した。

 

 夜、Yマダムの電話の内容が聞こえてきた。どうも日本人の男に頻繁に金を与えているらしい。本人は恋人のような人ね、と言ってプレゼントを買い込んでいるが、電話口からは強い口調で金をせびるような声が聞こえた。ママ活というやつだろうか。元々お金持ちではありそうだが、ヴィトンちゃんの会社へ出資させられ、男にも金を取られ、貢ぎ物を買い込むYマダム。その姿を見てなんだかやるせない気持ちになってくる。初日の夜に100万出せと言われた時はギョッとしたが、色々と事情のある人なのかもしれないナ。

 

 2月23日、いよいよ今回の目的地、佛光山総本山に向けてバスは出発した。その道すがら、新しい別院の建設予定地を見に行った。デパートの前に高層寺を建てて中身も最新式にし、若い信者を取り込むのだそうだ。デジタルに疎い私はあまり内容を理解できなかったが、素晴らしくハイテクな宗教施設になるようで、完成を見てみたいように思う。義援金を募っていた。

 

 いざ、本山へ。さてここで佛光山とは何かおさらいしておこう。高雄に本山を構える佛光山は、1967年に星雲大師によって創設された臨済宗系の宗教教団だ。本山の敷地は30ヘクタールを超え、仏陀記念館を含めた一帯はおよそ300万平方メートルとも言われる。特に高さ20mの黄金の大仏と、周辺の数千に及ぶ仏像群が有名で、多くの人が訪れる観光スポットとしての役割も担っているようだ。佛光山は台湾国内にとどまらず、世界50カ国以上に200前後の別院を持ち、信者数は数百万人規模とも言われている。仏教の教えを広めるため、学校、美術館、新聞社、テレビ局なども運営しており、境内には多くの飲食店やホテル、ショッピングモールなどが軒を連ねていた。もはや「お寺」という言葉から想像する規模を軽々と超え、ひとつの街と言っていいだろう。

 

 佛光山が掲げている教義は「人間仏教」。寺の中で完結する修行ではなく、社会の中で生き、働き、他者のために行動することを重視している。

 

 そうこうしているうちにやっと念願の本山へ辿り着く。朱に彩られたド派手な門の前で、爆音と共に歌と踊りのお出迎え。この手の熱烈歓迎にも慣れたものである。境内は広いので、門から小型の車に乗り換えて宿坊まで移動した。ここから数日リーさんと同室だ。部屋は十分に広く、シャワーとトイレも付いていた。今回の旅でやっと落ち着く部屋を得た。境内にあるカフェで仙草ゼリーミルクティーを一杯注文し、1人で散策することにした。ちなみに仙草とは漢方にもなる植物で、これをゼリーにしてミルクティーに入れている、割とポピュラーな飲み物だ。地図を見ると、どうも佛光記念館という建物が中心のようである、ここへ向かってみよう。道中、ここで修行を始めて2年目の学生さんたちと出会った。尼さんを目指しているキャピキャピしたギャル達だ。英語を勉強中だそうで、たくさん英語でおしゃべりした。頭を丸めており、もう一生色恋はしないし肉も食べないんだそうだ。そんなギャルが大勢いた。みんなどんな動機で出家を決意するのだろう。

 

 さて、佛光記念館に辿り着いた私は、開いた口が塞がらなくなっていた。天まで届きそうな吹き抜けの建物は、仏教の大型ショッピング施設だった。まず入り口近くにスターバックスがある。動物性の脂肪や肉を使わない、完全ヴィーガン仕様のスタバだ。お土産物屋もレストランも服屋も何でもある。タピオカ片手にスマホをいじる法師様がとても斬新に見えた。そのデパートを通り抜けて屋外に出ると、長い参道が現れた。白い石畳から照り返す光に目を焼かれそうだ。その大向こうに黄金に輝く阿弥陀如来の大仏が聳えている。やっとここへ来られたなと、安堵する気持ちもあった。大仏まで辿り着くと、その地下にいくつもの施設があることが分かる。礼拝場があり、仏舎利や涅槃像もあった。各所に台湾式五体投地で祈りを捧げる。立派な美術館やコンサートホールもあった。写経をし、満足して宿坊へ帰ることにした。境内は坂が多く、別の施設に行こうにも時間がかかる。歩き疲れて脚はパンパンになった。道々で中国語腕試しとして人に話しかけてみる。仲良くなって、大体みんな最後にはフルーツをくれるのだった。美味しいフルーツには困らない、南国の旅はこの点が最高だ。

 

 夕飯はツアーのみんなで円卓を囲んで大精進料理パーティーとなった。なぜか全く知らない信者の方が全員分奢ってくれる。これも「人間仏教」なんだろうか。夕食後、先ほどの佛光記念館の方へ行くと、そこにはまた別世界が広がっていた。七色にライトアップされた大仏、その背後から四方八方に伸びるレーザービーム。空にはドローンが絵を描き、花火がドッカンドッカン上がっている。流行りの台湾、中国、韓国、アメリカのポップスが流れ、ダンサーたちが参道を踊りながら練り歩き、彼らに続いて光り輝くフロートがゆっくりと進んでいた。よく見るとそれは教祖である星雲大師の形をしており、仏教的なキャラクターたちが勢揃いしているのだと気づいた。

 

 な、な、な、なんじゃこりゃぁぁ!!! あまりの派手さに、げんき君と私は叫び続けていた。ここは、ディズニーランドか!?エレクトリカルパレードなのか!?いや、もっと派手に見えるぞ!巨大な龍のバルーンが夜空を飛ぶ。プロジェクションマッピングが駆使され、異世界にワープしたのかと錯覚しそうになる。出演者数もそこへ集まる信者数も、人気のテーマパークに全く引けをとらない。その後境内では様々な催しが開催され、この一夜だけでヘトヘトになってしまった。

 

 部屋に帰って同室のリーさんに一連の出来事を報告するが、彼女は見慣れているのか全く動じない。私も落ち着きを取り戻し、静かに彼女の身の上を聞くことにした。日本在住の台湾人であるリーさんは、ご両親と旦那様を亡くされ、直後に東日本大震災が起こり、どん底の時期に佛光山に出会った。人のためになるよう行動せよとの教えに救われたのだそうだ。お兄さんは障害者でアーティストだったが、もうすでに亡くなり、残された作品を今は少しずつ売っている。妹はドバイの王子様とビジネスをするやり手ビジネスウーマンで、彼女の誇りだ。彼女自身はちょっと抜けたところがあり、よく忘れ物をしたり時間や場所を間違えたりしていたが、ツアーに一人参加している日本人の私を気遣ってくれる優しい人だ。青い石の入った結婚指輪をいつも大事に持ち歩いている。佛光山の宿坊に泊まると誰かと同室になることが多く、夜な夜な身の上話を聞けるのが一番の楽しみだ。しかしもう体力の限界だ、寝て明日に備えよう。

 

 2月24日、今朝はいつものお祈りではなく、特別な法要がある。白いTシャツと黒いズボンに着替えて講堂に集合した。開祖、星雲大師の一周忌の法要に参加するためである。この日は2000人以上が参列し、その様子はYouTubeで世界中に生中継された。例の如くあまりの規模の大きさにテンションが上がりすぎた私とげんき君は、法師様に呼び出されて注意を受けた。お経の内容は分からないけど、法水寺でいつも聞いているものや、般若心経もあるので、なんとかついてゆこうと試みる。何十分経っただろう、人でぎゅうぎゅう詰めの講堂にずっと立ちっぱなしで読経するのはとても苦しかった。なんと蛍の光を中国語で歌う場面もあった。それにしても目につくのは尼さんばかり。男性の法師さまは重鎮のほんの数人だけだった。誰に理由を聞いてもあまりピンと来る答えは得られない。謎のままだ。

 

 法要の後昼食をとり、その後ひとりで星雲大師の一生を描いたミュージカルを観に行く。その名もSTAR&CLOUD。あまり期待していなかったのだが、予想に反して感動してしまった。大仏殿の真下のコンサートホールは天井に巨大な蓮の花と雲をあしらった美しい建築で、音響も素晴らしかった。フィリピンの佛光大学の学生の歌や、演技のクオリティもとても高い。子役の歌がうま過ぎて泣けてきた。

 

 2月25日、リーさんと朝食に屋台で葱油餅を買う。境内に屋台がある事くらい、もはや驚かないだろう。

 ここで私はツアーを抜け、ひとり旅を開始するのだが、その話は私の寄稿文第14回をお読みいただきたい。

 

 さて、今回の旅では「カネ」と「祈り」について考えさせられた。カネを増やす事に執着する人々、巨万の富の上に祈りの施設が成り立っていること、その祈りの中で確かに救われた人がいるという事実。豊かであることは決して悪いことではない。一代でここまで信者を増やし、多くの人々を支え、導いてきたことは素直に賞賛されるべきだと思う。特に佛光山でも体験した通り、美しい宗教芸術が人の心を惹きつけるのは疑いようもない。

 

  けれども同時に、あまりにも目に映るものが華やかすぎると、意識がそちらに行ってしまい、祈りそのものに集中できない感覚もあった。むろんそれは私の修行不足によるものが大きいのだけれど。

 祈りにカネは必要なのだろうか。必要だとすれば、どこまでがふさわしいのか。あるいは、そこに上限というものは存在しないのだろうか。

 

 豪奢な宗教美術は、確かに人々を魅了してきた。ではその豊かさと祈りは、どのような距離感で在るべきなのか。皆さんは、どう思うだろう。




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背景画像:「精霊の巌」彩蘭弥

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