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転がる石ころ日記 第4回


角谷郁恵



偶然を築く



photo : Hide Watanabe


「紙で石を作っています」

そう言うと、何を言っているんだこいつはと、困った顔をされる。

そんな顔されても私だって困る。


石は自然が生み出したもの。強固なものの象徴。

紙は人が作り出したもの。簡単に破けてしまう。

「石」とは大きく異なる「紙」を用いて、私は石の表情を作り出そうとする。


使う紙の大きさは四六判サイズといって、大体、私が両手を大きく広げたくらい。

ちょっと扱いにくい程度に大きい方がコントロールが効かなくて良い。


その紙の上に、絵具や、墨、岩絵具(時に植物染液や紅茶など)を何層も重ねかけていく。

色を一層ずつかけては乾かして、また一層と色を重ねる。

複数の画材を使うことで素材同士が反発したり、ひび割れが生じたり、粒子と液体とが混在したりと

様々な現象が紙の上で起こり始める。

今度は乾ききらないところで、紙に皺をつける。紙の上に地殻変動を起こしているかのような感じ。

紙の上に新たに稜線が生まれ、色彩の通り道が生まれる。また乾かす。

再び絵具を流し込んでいく。紙の凹凸に合わせて絵具の溜まりが生まれ、物質として存在感を出し始める。

その繰り返し、繰り返し。極力自分の意図は消し、偶然が紙面の上に現れるのを待っている。




そういえば、紙の石を作る時、私は石のことをあまり考えていない。それどころか石を描こうとも思っていない。

揺れる大地や、大洪水の夏の嵐、鼻の奥が痛むような乾いた空気、冷たく光る山奥の川面、暗い夜の海のこと。

そんなことに思いを馳せながら、紙をしわしわに丸めたり、大きく腕を伸ばし刷毛で絵具を流し描く。

筆は風になり、絵具は雨になり、私は地層を重ねている、意識と無意識の間にいるような感覚がある。

しばらくすると、紙の上には幾つもの現象が過ぎ去った痕跡が残っている。


岩肌は自然が描いた絵画であり、彫刻なのだ。

断層に染み込んだ墨色、風が撫でた滑らかな流紋、熱いマグマが冷え固まって現れた気泡や結晶。

到底、私にはたどり着けない出来事の数々と途方もない時間がある。


紙を使って石を作る。なんて愚かなことだろうか。

どう頑張っても石には辿り着けない。

でも辿り着けないことがいいのかもしれない。



「紙で石を作っています」

そう言うと、みんな困った顔をする。

私だって困る。

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