top of page

転がる石ころ日記 第1回

  • 角谷郁恵
  • 2022年5月13日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年7月7日

角谷郁恵



なぎさを織る



「なぎさ」の連載のお話をいただいた頃、私は裂(きれ)を織っていた。



機の前に座り、植物を染料として染め上げた絹糸を、一本一本織り込んでいくと糸という線は面になり着実に一片の、そして一巻きの裂になっていく。

色は織り重ねていくことで、混色され、糸単体が持っていた色は揺らぎ、うつろう。

歩みを進めるように"ふみ木”を踏み換えながら緯糸(よこいと)を織り込んでいく。

黙々と織り進めていくと、ふと、波打ち際に立っているような感覚が訪れる。寄せては返し現れる色の波、そしてその色や像は決して同じではない。

足元が砂浜に変わる。

海の近くで育った私に今も強く残る感触がある。幼い頃、裸足になり波打ち際に立って、水平線を眺めながら波音を聞いている。

すると、まっすぐと立っているはずなのに、波と一緒に海の方へと引き込まれるような感覚に襲われる。

足の指先から、砂がさらさらと流れていく。少しだけ怖くなる。今度は引き込まれないように、つま先に力を入れ、ぎゅっと踏みしめる。けれど、また波と一緒にさらさらと砂は溢れ、海の引力に身体はぐらぐら揺れる。

根付こうと思っても、根付くことができない、海の前で私は無力で、逆らえないものがあるのだとこの身体を持って感じる。

足元には、波に委ねて、ころころと転がる石。


ここで書くのは、絵を描いたり、染織をしたり、粘土を捏ねたり、まとまりきれない私の、苔もむさない転がる石ころのような日々のこと。



Comentarios


Ya no es posible comentar esta entrada. Contacta al propietario del sitio para obtener más información.
辻信行_xlarge.JPG

ウェブマガジン「なぎさ」編集人

中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程単位取得退学。現在、NPO法人東京自由大学運営委員長、法政大学沖縄文化研究所国内研究員、中央大学政策文化総合研究所客員研究員、株式会社風と光代表取締役。主な著書に『韓国・朝鮮の近現代史と日本』(李熒娘編著、中央大学出版部、2025年)、主な論文に「寺山修司と沖縄―アンビバレントな眼差しをたどる」『知性と創造』(11)日中人文社会科学学会、「生と死をめぐる風景」『南島研究』(57)など。

背景画像:「精霊の巌」彩蘭弥

© 2022 なぎさ created with Wix.com

bottom of page