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幸せのありかを探して 第9回

若者たちの日本語熱


川口真子


 「おれは日本語が上手になるおとこだ。」


 これは、学生に将来について聞いたときの答えだ。


 ブータン王国で日本語教師をしている、という話をすると、学習者について聞かれることが多い。

アジアの山奥にある小国で、しかも日系企業のないブータン王国で、どうして日本語が学ばれているのか、確かに疑問に思うだろう。

 実は、ブータン王国では数年前から、若者たちを中心に日本のアニメが流行っている。

私が赴任した9年前は、一部の若者がドラゴンボールやドラえもん、忍者ハットリくんなどを知っている程度だったが、徐々に日本のアニメを知っている若者が増えてきているのを感じている。

ワンピースとナルトは王道だが、鬼滅の刃や呪術廻戦はブータン王国の小学生から大学生まで幅広く人気である。男の子たちは、主人公たちが夢や目的をもって冒険する様子に感動するらしい。アニメのキャラクターのように、強く、かっこよくなりたい!と学校の友だちと話し方を真似たり、アクションを覚えたりすることが多いそうだ。

 上記にあげたアニメは、日本では少年向けに取り上げられているが、ブータン王国では女の子にも人気である。彼女たちは主にキャラクターのかっこよさに魅かれてはまっていくそうだ。

ちなみに、大学生以上の人たちが日本のアニメにどっぷりとはまる理由は、ストーリー性らしい。日本のアニメやマンガのストーリーは、とても深くて、一コマ一コマに意味が含まれているのが新鮮で、刺激的だと言う。だから、次から次へと色々な設定のアニメが見たくなるのだそうだ。


 今、アニメにはまっている現役のブータン人学生たちは私以上に日本のアニメについて知っている若者がほとんどだと思う。私は海外に出て、アニメに触れる機会が減ってしまったので、彼らから情報収集する日々である。


 ちなみに、上述した学生の将来の夢への回答も、みなさんもご存知、ワンピースの主人公の名台詞をまねたものである。


 私が勤務しているセンターでは、現在200人以上の学生が色々なコースを受講しているが、日本語コースの学生でなくても、日本のアニメを見たことがある学生が多く、全く面識がなくても、私を見つけると、「こんにちは」とか「ありがとう」と声をかけてくれる。

 子どものころからワンピースやナルト、ドラゴンボールなどのアニメを見ているので、自然と覚えたらしい。

 「チャンスがあったら、日本語を勉強して、字幕がなくても内容が理解できるようになりたいんです!」と、日本語に興味を持ってくれる若者がたくさんいるのは、とても嬉しいし、私のモチベーションを一層高めてくれる。


 日本語を教える立場からも、学習者がアニメを好きでいてくれると教えやすい。

 私は日本語を教える際に英語などの媒介語をほとんど使わないのだが、今の学習者たちはアニメで日本語を聞き慣れているので、私が何度か使えばすぐに理解してくれるし、友だち同士で使ったり、教え合ったりして、授業以上のことを次々と学んでくれる。

 好奇心の強い学習者は「おれは・・・」や「すまん」、「腹へった」など、授業では絶対に教えないような言葉をポロッと言って、私を笑わせたり、驚かせたりしてくれる。

 日本の子どもと同様に、「そんな言葉から学ぶのは良くない!」と言われることもあるが、私はそうは思わない。そういう学習者がいると、他の学生も積極的になるし、使い方を教えるいい機会にもなるので、ありがたいと思う。


 私がブータン王国に来て以降、ずっと課題として掲げているのは、日本語学習者が生の日本語に触れられる機会がほとんどないことだった。

 しかし、日本のアニメやゲームが世界でも爆発的に流行したおかげで、ここブータン王国でも、日本語学習者は教科書以上の日本語が学べるようになり、若者たちの日本への興味もますます強まってきていると実感している。

 日本のサブカルチャーを代表するアニメをもっと活用して、ブータン王国でユニークな日本語教育を展開していくのもいいかもしれない。

 そのためには、まず私も日本のアニメについてもっと研究しなければならないので、仕事はほどほどに、学生とアニメを楽しみたいと思う。



学生が配布用に作ったパンフレットです
節分の鬼のお面も、某アニメのキャラクターで作っていました

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