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幸せのありかを探して 第5回

「故郷」との出会い


川口真子




 「この盛り上がって歓声を上げている人々の中に王様がいるの?」

 私が「ブータン王国」という国について、テレビで初めて知ったときの印象だ。

 どんな番組だったかは忘れてしまったが、そこには、大きな観客席にたくさんの人がいて、しばらくすると、真ん中に座っていた男性にズームされた。

 なんと、その男性が「ブータン王国」の王様(第4代)だというのだ。

 服装も周りの人たちと変わらないため、紹介されなければ、絶対に気が付くことができなかった。

 この日に、当時中学生だった私にとっての「王様」のイメージは一瞬で崩れ、「ブータン王国」という国について、興味を持ち始めたのだった。


 それ以降、図書館や本屋でブータン王国についての書籍を探して、読み漁った。

 ブータン王国についての知識が増えれば、増えるほど、ますますブータン王国という国が気になってくる。

 大学に入ってからは、英語の論文なども読めるようになり、より一層興味が深まっていった。

 中でも、特に私が惹かれたのは、ブータン王国の「GNH(Gross National Happiness)」だった。GNHとは、日本語で「国民総幸福」とも訳される、ブータンの国づくりの基本的な考え方で、「経済的な指標(GDP)だけでなく、人々の幸福感(GNH)も追求しよう」という考え方だ。

 大学で諸国の文化と政策について学んでいた私には、ブータン王国のGNHはぜひ研究したい対象となった。

 しかし、当時は専門家や資料が少なく、いくら資料を読み漁っても、私自身の中でGNHがどういったものなのか、はっきりと落とし込むことができなかった。

 ちょうど大学に在籍していた2011年に現ブータン国王(第5代)が日本を訪れたことで、日本での「ブータン王国」の知名度は一気に上がったが、取り上げられるのは「幸せの国、ブータン」というものばかりで、やはり「どうして幸せの国と言われるのか」という根底部分が伝わらない。

 結局、机上での研究に限界を感じて、大学の最終年にブータン王国に行くことを決意したのだ。

 ブータン王国への入国は簡単ではない。バックパッカーは一切禁止、必ず旅行会社を通じて専属のガイドとドライバーをつけなければならないし、旅行会社は滞在場所などを含む全ての日程を入国管理局に提出、許可をもらって初めて観光ビザがもらえる仕組みだ。また、1日の滞在費も当時大学生だった私にとっては安いものではなく、大学4年間で貯めたお金全てをかけた。

 初めての一人旅が、あまり情報のないブータン王国で、出発前は不安も多かったが、空港に着いた瞬間にネガティブな気持ちは一切消え去った。人々から伝わる温かい雰囲気、見渡す限りの豊かな自然、常にどこからか耳に入るお経の声、のんびりと流れる時間。その全てが私にとって居心地のよいものだった。



 旅程では、主に西部の主要な観光地を回り、余った時間には、町中を歩いたり、家にお邪魔させてもらったり、とにかく現地の人々と交流するようにした。

 彼らと話をする中で、目には見えない「幸せ」というものが、どういうものなのか学ばせてもらった気がする。

 ある人は、「家族と過ごす時間が幸せだ」と言う。ある人は、「毎日ご飯が食べられることが幸せだ」と言う。ある人は、「毎日お寺に行ってお祈りできることが幸せだ」と言う。

そうだ、幸せの基準は人によって違うのだ。

 こんな当たり前なことにも、当時の私は気が付いていなかった。

 また、そのとき何よりも驚いたのは、誰も「お金」という言葉を発しなかったことだ。

 たまたま話を聞いた人がみなそういう考えだったのかもしれない。でも、滞在中に話を聞いた人全員が「お金」という言葉を発しなかったことに、必ずしも「幸せ=お金」ではないのだ、ということを感じた。


 日本にいると、「幸せの国、ブータン」というキャッチフレーズが先行しているので、私も周りの人から、「ブータン人は幸せなの?」「あなたもブータンにいて幸せ?」と聞かれることが多いのだが、これは少し違うと思っている。


 ブータン王国は、「幸せの国」ではなく、人々が幸せを感じられる国づくりを常に目指し続けていること。

 ブータン王国の人々は、私たちだれもが持っている、身の回りにある幸せを見つけるのが上手な人々なのだ。


 だから、私も身の回りの幸せを1つでも多く見つけられるように、そして、自分の人生を幸せなものにできるように、もっと彼らの生き方を見習っていきたい。

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