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幸せのありかを探して 第3回

  • 川口真子
  • 2022年11月10日
  • 読了時間: 2分

「故郷」を感じる風景


川口真子



私がブータンに来て、最初に「故郷」を感じたのは風景だった。

第1回の記事でも述べたが、着陸前、飛行機の窓の外に広がる山々、そして田園風景に、ホッと心が落ち着いたことを今でも鮮明に思い出す。


私はそのような風景に馴染みがあったわけではない。むしろ日本ではほとんど見たことがない風景かもしれない。


それでも「故郷」を感じるというのは、不思議なものである。

かつて、先祖がこのような風景の中で暮らしていて、その記憶が、私の心の奥に留まっているのだとしたら…。

ちょっぴりファンタジーだが、素敵な話だ。


今日は私がブータンの中で最も「故郷」を感じる風景を共有したい。

ここは、標高3,000メートルほどの谷地に広がる村で、私がブータンで最も美しいと思っている場所だ。

この村はオグロヅルが飛来する土地でもあり、村に電気を通す際には、環境保全を取るか、便利さを取るか、という議論が行われたことも有名である。

現在は、電線を地下に埋め、環境を守りながら、人々の生活も便利になっている。


とはいえ、この村での生活は、ブータンで一般的な農村の生活である。

電気の使用は必要最低限、お風呂やシャワーなどはなく、どうしても洗わなければならない食器などは水で洗う。標高も高く、谷地であるため、冬はひどく冷え込むが、ヒーターなどはないため、家族が集まる部屋にある「ボカリ」と呼ばれる薪ストーブで、体を温める。

都会暮らしに慣れた私からすると、非常にシンプルで、無駄のない、けれども不足もない生活だった。

そして、余計なものがないからこそ、家族みんなで衣食住を共にし、濃い時間を過ごせたことは、私にとって一番の思い出であり、幸せな時間となった。



日本での生活は言うまでもなく、幸せであり、満たされたものであることは間違いない。

しかし、ブータンでの生活を経験してから、物や情報が溢れすぎているようにも感じる。

決してそれが悪いと言いたいのではなく、私には、物よりも家族や人との時間のほうが大切だったのである。


何回訪れても、「また帰って来たい」と思える場所。まさにここは私にとっての故郷なのだ。

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辻信行_xlarge.JPG

ウェブマガジン「なぎさ」編集人

中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程単位取得退学。現在、NPO法人東京自由大学運営委員長、法政大学沖縄文化研究所国内研究員、中央大学政策文化総合研究所客員研究員、株式会社風と光代表取締役。主な著書に『韓国・朝鮮の近現代史と日本』(李熒娘編著、中央大学出版部、2025年)、主な論文に「寺山修司と沖縄―アンビバレントな眼差しをたどる」『知性と創造』(11)日中人文社会科学学会、「生と死をめぐる風景」『南島研究』(57)など。

背景画像:「精霊の巌」彩蘭弥

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