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幸せのありかを探して 第2回

「故郷」を感じる人との触れ合い


川口真子



私は海外旅行をするとき、一番楽しみにしていることがある。 それは、現地での「人との触れ合い」だ。 便利な時代になり、本やインターネットの情報から、知識として得られるものは日々増えていくが、私は直接肌で感じて得た知識に勝るものはないと思う。 私は、まだ5、6か国ほどしか旅したことがないが、各地で出会った人々から、それぞれの国民性、地域性が感じられ、どの国での出会いも、私にとっては忘れられないものとなっている。 特に、「人」に関しては、言わずもがな十人十色で、同じ国民、同じ村民、そして、家族であっても、それぞれの個性が見て取れ、その度に良いカルチャーショックを受けるので、全く飽きない。

そんな旅の記憶の中で、全くと言ってよいほど衝撃を受けなかった「人」がいたのがブータン王国だった。 ブータン王国を旅行する際には、必ず専属のガイドと運転手が付くのだが、空港について会った瞬間から、何とも言えない安心感があった。 それは、見た目が日本人に似ているということだけでなく、動作や話し方、そのトーンまでもが、まるで日本で日本人と触れ合うときと変わらなかったからである。 たいていの場合、海外でガイドやホストファミリーなど長い時間一緒にいる人であっても、どこか緊張感が残るものなのだが、その緊張感が全くなかったのが不思議である。 ましてや、このブータン王国への旅行は、初めての一人旅だったので、タイから飛行機に乗るまでは、口から心臓が飛び出るほど緊張していたのにも関わらずだ。 どこか既視感のあるガイドさん、運転手さんとともに、有名どころの観光地を訪れ、ホテルやお土産屋などで現地の人と触れ合えば触れ合うほど、「海外旅行感」が薄れていく。 話している言語は違えど、出会う人のほどんどが、「日本にいそう」な様子なのだ。 みんな笑顔で、まるで久しぶりに会うかのように話しかけてくる。そんな空間で、私は幸せを感じることができた。

そんな中、私は人生で一番大きな出会いを経験した。 旅の後半、首都から車で5時間ほど離れた谷にある村へ行ったときのことである。 初めての一人旅に大興奮だった私は、とにかく思う存分現地での生活が知りたくて、農村宿泊を予定に入れていた。 とはいえ、全く知らない人の家に一人で泊まることに、緊張もしていて、道中は景色を楽しめないほどドキドキしていた。 しかし、滞在する家の前まで来た瞬間、それまでの緊張が一気に吹っ飛んでしまった。当時、お父さんとお母さん、そして娘が2人いて、みんなが笑顔で待っていてくれたのだ。 言葉は全く通じなかったが、手招きして、暖炉「ボカリ」のある部屋へ連れて行ってくれ、おいしいお茶を一杯入れてくれた。 お母さんは、まさに「お母さん」という雰囲気で、私も思わず「アマ(お母さん)!」と呼んでしまうほど温かいオーラに包まれていた。 そこで2泊させてもらったが、言葉が通じないお母さんがいちばん、私を気にかけ、声をかけてくれ、家庭の物や料理などをたくさん教えてくれた。 首都に戻る日には、お母さんが作った乾燥野菜をたくさん持たせてくれ、最後まで私の体を心配してくれた。その情景は今でも鮮明に思い出される。 2日前まで、全く知らない人だったのに、たった2日で「家族」と思える人に、初めて出会った瞬間だった。 どうしてあのとき「アマ!」という言葉が出たのか、今でも不思議に思うが、きっとこの出会いは決められていたのだ、運命だったのだ、と思っている。 仕事や世界情勢の影響で、なかなか日本に帰国できず、少し寂しい気持ちになったときも、アマの家へ行けば、帰省した気分になれる。お正月や連休などはもちろん、辛いことがあったときはアマの家へ行き、のんびりさせてもらっている。代わりにアマや家族が首都へ来たときには、私の家に泊まってもらい、一緒に過ごすのが恒例になった。 ブータン王国の人は、なんとなく、他人との壁が低い(薄い)のかもしれない。 もちろん、私が滞在した6年の間に、少しずつ変わってきて、首都の中心部ではなかなか同じような経験はできないかもしれない。 しかし、一歩外に出れば、まだアマや家族のような人たちがたくさんいるのも事実である。 私は現在、ブータン王国西部の町にいるが、ここの人たちも、まるで以前に会ったことがあるかのように初日から接してくれるので、とても居心地が良い。 日本にいたときは、知らない人と仲良くなるのにとても時間がかかった。 特に私は知らない人に声をかけるのが苦手だったので、知らない人と仲良くなる機会も少なかった。 しかし、そんな私を変えてくれたのが、アマとの出会いだった。 ブータン王国という異国の地で、アマ(お母さん)やアパ(お父さん)をはじめとする「家族」が増えていくのは、とても嬉しい。 結局、人と人との繋がりが幸せを感じる一番の近道なのではないかと感じている。

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