町の群像
岡庭璃子
町は姿を変えながら途切れることなく続いていて、 古いアパートや多摩川、ショッピングモール、アパホテル、 ばかでかい高層住宅や錆びた看板が乗った小さなビルとかが、 こちら側とは違う次元のように走り去る。 流れる町を背景にして、スマートフォンをいじる人、本を読む人、 自分の意思とは裏腹に体を傾けながら眠る人たちが静かに座り、 ドアの近くには首をもたげてスマホを愛でる人が手すりに寄りかかっている。 一人ずつ、どこか別の場所へ向かっていて、少しの時間だけ同じ空間にいて、同じ方向に動いている。 それで、いったいどこに行きたいんだっけと思う。 みんなはそれぞれの目的地に向かっているのに、 一人だけ目的地もなくこの世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥る。 吊り革は小さく揺れ続けていて、次の駅のアナウンスが流れる。 もぞもぞと読んでいる本をしまい、せっかちなおばさんは席を立とうとしている。 車体が大きく揺れるとどこにも掴まっていない人がバランスを崩して躓く。 風景と並行に走る電線を目でなぞり、空っぽの気持ちで外を眺める。 徐々に車体はスピードを落とし、駅のホームに入る。 ホームの上で電車を待つ人が窓の外を流れてくる。 この町を過ぎても電車は前に進み、 途切れることなく次の町に繋がってゆく。
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