ひるとよるのあいだ
岡庭璃子
遊歩道で話すおばさんたちの犬が挨拶をし、
砂浜の子供はキャンディボールに逃げられている。
恋人たちはコーヒーを隅に置いてやけに狭そうに腰掛け、
砂山の上のショベルカーは刻が止まったように静かだ。
海の上に点々と浮かぶサーフボードは、沈んでいく太陽に悠々と揺られ、
風よけの柵ではカラスたちが夜の来るのを待つ。
いま私の見ている世界は、どれくらいの強さで成り立っているのか。
向こう側から訪れる波頭がこちら側に到着するやいなや砂に飲まれて消えてゆき、
もっと向こう側から来た波頭がまたすぐに砂に飲まれ消えてゆく。
波頭が描いた砂のパターンは、幾度となく描き直され、とどまることなく美しい。
潮をはらんだ風が髪の毛の一本一本にからまり、すこしべたついた頬にはりつく。
靴に入る湿った浜砂を、靴下越しに足の指を伸ばしたり縮めたりして確認している。
明るくもないし暗くもないこの時間が、この世界とあの世界の境界を滲ませてゆく。
少し歩くともうそこには夜が始まっていて、
犬たちは家路を急ぎ、
子供はすっぽりと自転車の後部座席に収められ、
恋人たちのコーヒーはとうに冷めていた。
ショベルカーの背景は群青に染まり、
夜の暗さをしっかりと引き受けた海面からは、大きなサーフボードがゆっくりと歩いてくる。
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