初めの日の風景
岡庭璃子
ここ最近はよく晴れた日が続いていて、
薬指にできたささくれを親指のはらで触る癖がつく。
昨日の続きのはずなのに、全く新しいもののように映るこの日が
いつか見た風景に似ている気がして、でもよく思い出せない。
小型犬を抱きながら歩く老爺とその後ろをおおまたでついていく孫が
お揃いの白いボアブルゾンに身を包んだ二人の女子が
外套を小脇に抱える壮年期を少し過ぎたくらいのアベックが
堤防で一人海に向かう小さな釣り人が
海風でしなるパームツリーが
この風景の記憶を作り出している。
みな橋を渡り、足取りは軽く何やら柔らかで、
その掌の中には憂鬱や辟易といった感情はなく、
雲一つない空がすっかり空洞になった身体を飲み込み、
わずかな震動が膝に響く。
無宗教だけれど素直に祈るこの日は
毎年同じリズムでやってきて、
一番新しい光を掴んでは手放し
そっと後ろの人に手渡してゆく。
誰かの幸福や無事を祈る尊い風景は
静かに奥の方にしまっておく。
手袋をとりハンドクリームを手に広げ丁寧によく摺り込み、
初めの日を終わらせ、みなそれぞれの帰路に着く。
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