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凪のめぐる 第2回

いきるとしぬの間

岡庭璃子



お別れをした。


朝、いつものように、鳥籠にかぶせた毛布を開けると小さな声がしていた。

飼っている鳥が卵を孵したのだ。

そこには確かに命があって、

しかしそれはすぐに通り過ぎていった。

力強く生きていたからこそ、

もう動かなくなった雛がまたすぐに動くのではないかと温めた。

それでも伝わってくるのは自分の手の温度で、

自分の手はこんなにも温かくなるのかと

掌にある死が自分の生を強く自覚させた。


もしあの時こうしていれば、

もし1時間前に戻れたなら、


まだ何かできるのではないかと急いでiPhoneを手に取り、

“雛 生き返らせる”と検索した画面の一番上のYahoo知恵袋には、

“文鳥生き返らせることできませんか?至急”の質問。

ページをスクロールしてゆくと、

“一度死んでしまった命は、もう元に戻ることはありません”

というベストアンサーが選ばれていてふと我に返る。


あ、死んじゃったんだ。

さっきまで可愛い声で必死に泣いていた小さくも確かな命は、

もうここには無くなってしまった。


忘れないように写真におさめ、

近くのお寺の裏山に埋めにいく。

ティッシュペーパーを布団にして、左の掌の上に雛を乗せ、

右の掌を山型にかぶせる。

お寺では骨董市をやっていて、人で賑わっている。

左手にある冷たい重みと、目に入ってくる風景との温度差が

無意識に足取りを早くする。


長い階段を登ると大きなストゥーパがあり、

そこには無数の草花が繁茂している。

裏側に少し開けた空間があって、

ここなら静かに眠れそうだと思った。

持ってきたスコップで穴を掘る。

ティッシュから雛を持ち上げ、

穴の中に移すやいなや、アリやダンゴムシが雛に群がってくる。

なんとなく雛がこの場所に祝福されているように感じて、

死んでいる生き物と生きている生き物の境目はないように見えた。



 

土を均して近くの雑草の花を置く。


スコップについた土をはらいリュックに入れ、

階段を下って骨董市の雑踏を抜け家路に着く。

帰り道にオレンジのガーベラを買う。

左手の冷たい重みはもうない。


ガーベラはキッチンに置いた。

窓からはストゥーパが見える。





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