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スサノヲの冒険 第14回

鎌田東二

スサノヲの地政学


 地政学はドイツ語でGeopolitik、英語でGeopoliticsと書く。Geoとは、地球とか大地を意味する。

 ではその地政学が、スサノヲとどう関係するのか?

 スサノヲが「天下」を治めることを命じられた地上のヌシ神であることは、『古事記』や『日本書紀』や『先代旧事本紀』に記されているとおりである。

 『古事記』には「海原」、『日本書紀』には「根国」(本文、第一・第二の一書)「青海原」(第十一の一書)「天下」(第六の一書)、『先代旧事本紀』には「天下」を治めよと父イザナギに命じられたと記されている。

 「根国」が死者の国だとすると、「海原・青海原」は、そこに至る通路でもあり、陸である「天下」に至る通路でもある。

 じっさい、スサノヲは、姉のいる天上界=高天原に行って乱暴狼藉をしでかし、そこを追放されて、地上=天下=葦原中国の出雲の地に降り立って、ヤマタノオロチを退治した。

 ということは、天上天下海原根国と、記紀神話に出てくるすべての国々を諸国遍歴したのはスサノヲだけだということになる。

 アマテラスは、自分の領分の高天原から一歩も出ていないし、ツクヨミの夜の領域から離脱することはない。

 だが、スサノヲは逸脱しまくり。ドロップアウトしまくりの神である。これほどの「逸脱神・遍歴神」は他にいない。

 

 問題は、その自分勝手な逸脱しまくりが、じつに周到なその後のライフラインの戦略的敷設にもなっていると思える点だ。

 天上と天かという垂直軸、海と陸という水平軸、根国=あの世と葦原中国=この世という顕幽軸、その立体交差点の交点に立って、四方八方に侵入し、飛び巡っているのがスサノヲなのだ。スサノヲは記紀神話の「どこでもドア」(『ドラえもん』)であり、「萃点」(南方熊楠)なのである。

 それを物語の語り部の側から言えば、スサノヲほど面白くて頼りになるキャラクターはいないということになる。日本神話における原観音で、三十三身に変化して衆生済度する観世音菩薩の神道版でもあるということになる。

 なので、語り部からすれば、奥の一手であり、何でも屋、どこでも救済屋になってくれるのがスサノヲで、実に重宝な存在であり、キャラクターなのだ。

 スサノヲは十方世界のブリッジであり、電信柱=交信器であり、コネクターであり、ハブ、である。

 であれば、地政学的には宇宙ステーションにして通信衛星基地のような必要不可欠の接続ポイント、中継基地になる。

 ゆえに、スサノヲなしには物語は展開しないし、続かない。起承転結も序破急も守破離も生まれない。能の「諸国一見の僧」の原像がスサノヲである、ということになる。

 スサノヲなしに明日はない。スサノヲの子分である私は、身をもって、そのことを実感し、実践している。

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