懐かしい異郷
川口真子
タイ、バンコクから飛行機に乗ってしばらくすると、雪に覆われた山々が突然姿を見せる。彼ら(彼女ら)はいつでも変わらずに雲間からその鋭い頭を覗かせ出迎えてくれる。
もう何度この景色を見させてもらっただろう。
その瞬間、私は「ああ、帰ってきた」と心の中でつぶやくのだ。
またしばらく飛行機に揺られると、今度は青々とした山々が姿を見せる。
目的地はもうすぐだ。山と山の間をくぐり抜けるように少しずつ下降していく。
徐々に家々や田畑、山の上にポツンと建てられた寺院などが見えてくると、機内に民族音楽が流れ始める。
着陸し、飛行機から降りて深呼吸を一つ。
「ただいま。」
私の目的地は、ブータン王国。
日本から、半日かかるこの地は、私に「故郷」を感じさせる不思議なところだ。
都市部で生まれ育ち、祖父母も都会にいた私にとって、「故郷」は山ではなくビルが広がる景色であるべきだと思う。
しかし、私は初めてここへ来たときから、なぜか「故郷」を感じ、その何とも言えない懐かしさに魅了されている。
ブータン王国はなぜ、私に「故郷」を感じさせるのか。
そもそも「故郷」とは何なのか。
人、食べ物、服装、景色、生活様式、・・・と、いろいろなところにヒントが隠れているようだ。
本連載では、日々を振り返りながら、その秘密を探していきたいと思っている。
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